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川上統 作曲家

 

1979年生まれ。東京生まれ、広島在住。東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲専攻卒業、同大学院修了。作曲を湯浅譲二、池辺晋一郎、細川俊夫、久田典子、山本裕之の各氏に師事。2003年第20回現音新人作曲賞受賞。09、12、15年に武生国際音楽祭招待作曲家。18年秋吉台の夏現代音楽セミナーにて作曲講師を務める。楽譜はショット・ミュージック株式会社より出版されている。現在、エリザベト音楽大学専任講師、国立音楽大学非常勤講師。Tokyo Ensemnable Factory musical adviser、Ensemble Contemporary α作曲メンバー。作曲作品は170曲以上にのぼり、曲名は生物の名が多い。チェロやピアノや打楽器を用いた即興も多く行う。

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擬蟷螂a.sax., pf. (2022, 初演)

擬蟷螂

Mantidfly

カマキリモドキと読むこの生物は名前の通りカマキリに似ている昆虫なのですが、アミメカゲロウ目という仲間に入る昆虫でカマキリとはまた違う系統なのです。大型の種類になってくると更にアシナガバチ等にも似ている体格、黄色と黒、または褐色の縞模様があり、どちらかというこういった蜂の方に擬態しているのではないかという位に見ているこちらに警告を与える風貌をしています。

私自身は10歳位の時に不意に道路を歩いているヒメカマキリモドキを見つけた事がありました。この種は比較的小さいのですが、その前からカマキリモドキの存在を知っていた自分はとても嬉しくなり、捕まえる事はせずとも「私はカマキリモドキを見た事がある」という事を誇りに42歳まで生きてきました。半分冗談ですが、その位なかなか能動的に見かける事は難しく、それ以降一度もまだ自然の中でカマキリモドキに再会していません。

面白いもので、モドキ等の言葉がつく何かに似る生物というものは、むしろその似ている特徴を独自の特徴として成立させている事があります。それが似る対象との差異の大小である事もありますし、特徴が複合される時のキメラ感とは違ったすっきり成立している存在感があります。特徴としての情報量が非常に多いこのカマキリモドキもそのような印象を持つ生物で、カマキリともハチとも違う忙しなく動く触覚の上下運動や鎌を収めるポーズがカマキリと少し違う点(何となく刀剣の逆手持ちのような印象がある構えです)など、微妙に違うところがこの風貌と混ざって独特の存在感を放ちます。また飛行能力もしっかりあり、この風貌で素早く飛んでいく姿も意外な印象を持ちます。

このように多様な特徴を持ちながら、一つの個としてシンプルに集約されている存在感にサクソフォンという楽器の存在感が何となくマッチしたような印象を持っておりまして、活発な機動力を持ちながら、多様な繊細な音コントロールと他楽器に似て非なる、という特徴を存分に発揮している楽器のように思いました。そしてピアノのソリッドな音と混ざった時にまさしくこのカマキリモドキのような存在感があるのではないかと考え、加藤和也さんに以前からお尋ねしていたお好きな生物と仰っていた「カマキリモドキ」の曲にしようとして描きました。

曲の特徴としては、今回はそれほどこの生物の動きのトレースを重視したわけではありません。どちらかというと、前述のような様々な音運動の特徴をアルトサクソフォンとピアノの音に混ぜ込み、できるだけ一様にならないように、を心がけて全力で素早く飛翔し捕食し、触覚を連動させる、という事をしている曲です。

カマキリモドキは私にとっても本当に好きな昆虫の一つで、その存在感を何か感じ取っていただけましたら幸いです。

​川上統

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