鈴木治行 作曲家
東京都出身。1995年『二重の鍵』が第16回入野賞受賞。2005年ガウデアムス音楽週間、2006年イタリアのサンタマリア・ヌオヴァ音楽祭、2009年ニューヨーク「Experimental Intermedia」に招待など、作品は国内外で演奏、放送されている。他ジャンルとのコラボレーションにも積極的で、2014年11月にはケルンでサイレント映画『カメラを持った男』ライヴ、2015年には東京都庭園美術館にて参加型音響作品「饗宴のあと」を発表。
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《句読点 III》 s.sax. solo (1994)
「句読点」というのはソロ楽器のためのシリーズの名称であるが、単にソロでさえあればいいのではなく、もう一つコンセプト上の特徴も持っている。それは簡単に言えば、つながっているものを突然断ち切ってゆく「異物」が次々とクサビのように打ち込まれ、音楽の流れがその都度脱臼させられる、その連鎖によって音楽の時間が生成されてゆく、ということになるだろう。断絶感をより強めるためには、断ち切られる「地」の部分が前提としてより横のつながりの強い、連続的な素材であることが好ましく、それを断ち切る「異物」はその「地」とはよりかけ離れた性格を持った素材であることが求められる。しかも、異物による断絶は、繰り返される毎にわずかずつ違和感を失い、断絶感を生まなくなってゆくので、更に新たなる別の「異物」の登場が求められ、こうして「異物のインフレーション」状態が引き起こされる。
こうした「句読点」シリーズの作り方は、感覚の鈍磨の具合をたえず吟味しながら、着実に頭から順に作り足してゆく、という手順によって実現される。それは私がよく実践するもう一つ別の反復的な作曲路線の、素材の頭から尻尾までを何度も行ったり来たりしながら加工を繰り返してゆく、という作法とは対照的である。
鈴木治行